忍者ブログ

なめんなよ?

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

破った手紙の数だけ花を贈ってみようか

こんばんは。
梅雨に便乗してしみったれた文章を書いてみました。突然。

読んでくださる方は続きからどうぞ。




気付くと、そこに立っていた。
見慣れない、不可思議な場所。
「(・・・どこだろう、ここ)」


ただただ真っ白の空間。
天も地も、右も左もただ白く、何も無い。
どうやってここまで来たのか、何故こんなことになってしまったのか、分からない。
「(頭が、ぼんやりする。それに何だか、足が・・・)」
足の裏がやけに痛い。
足元をよく見ると、平らだと思っていた地面は、真っ白な小粒の石が敷き詰められていた。
 石一つ一つはあまり角張っていないが、ぼうっとしている間に、小さな刺激が重なって気になるくらい痛くなり始めていた。
歩いたらもっと痛そうだが、立ち尽くしていても結局痛いままだ。
「(とりあえず、進もう)」
私は、前も後ろも分からない空間を歩き始めた。






しばらく歩いていると、様々なことに気付き始めた。
まず、左右の白は空間ではなく、壁だった。
触ると、少しざらりとして、何故か甘い匂いがした。
そして、よく見ると真っ白では無かった。
微妙に色の違う大きな円が少しずつ重なって描かれていて、
その重なった部分から、穴が空いている訳でも無いのに生暖かい風が漏れていた。
ますます意味の分からない空間だな、なんて思いながら歩いていたら、
進行方向のずっと遠くに、小さな黒っぽい点が見え始めた。
「(もしかして、出口?)」
私は、少し歩を早めた。
実はさっきから、ちょっとだけ泣きたい気持ちになっていた。
終わらない足の痛み。延々と続いているように思える、何も無い空間。
寂しかった。
そして、こんな寂しい場所は知らないはずなのに、
進むにつれて何かを思い出しそうな感じがして、
それは思い出してはいけないことのような気がして、
なんだか泣きたかった。
「(早く、出よう)」




ようやく、点の目の前に着いた。
点は、点ではなくて四角だった。もっと言うと、一枚の絵の額縁だった。
絵の中には、一組の人間の男女が描かれていた。
右側に男、左側に女がいて、二人とも膝立ちで向かい合い、
男の両手は女の首元に伸びて、緩く首を掴んでいた。
男の口は開いていて、何かを言っているようだった。
女はそれを、聞いているのかいないのか、目を閉じてただただ無表情だった。
女のその表情を見たとき、急に右腕が震えて、私は思わずぎゅっと手を握り締めた。
女は何を考えているのだろう。
男は何を言っているのだろう。
男の表情をもう一度確認しよう。そうすれば何か分かるかもしれない。
私は、視線を動かそうとした。

その瞬間、


世界は、ぐるりと回転した。






ごすん。
鈍い音がして目を開けると、そこは自宅のリビングのソファの足元だった。
近くに置いてあるテレビから、野球中継の音がしている。
「大丈夫?」
母の声がした。
そうだ、今日は仕事が早く終わって、家に帰ってすぐリビングのソファに寝転んで。
「(寝てたのか・・・)」
母の問いかけには返事をせず、上半身を起こしてソファにもたれかかった。
 寝惚けてんの、ご飯まだだから寝てていいよ。そう言って母は、野球中継の音を少し小さくして、夕飯の支度に戻っていく。
テレビの音が小さくなったからなのか、ふいに窓の外の音が聞こえてきた。
さぁさぁ、という弱い雨の音。
そういえば帰ってくるときも雨が降っていたっけ。
雨の日って眠いんだよなあ、と思いながら伸びをしたら、コツン、と足の先に何かが当たった。
「(・・・あ、携帯?)」
 背面が上を向いた状態で、右上の角に小さな緑色の光が点滅している。
拾い上げて裏返すと、黒い画面に新着メッセージが浮かんでいた。


『あのさ、突然なんだけど、ご報告。

 俺、結婚します。』











ああ。

なるほど。


そうか、そうだったのか。


私の頭の中で、何かが光って繋がった。
額縁の中の男が言っていたこと。
今なら、はっきりと分かる。
それから、男がどんな顔をしていたのかも。



そして私はもうずっと前から、
それを痛いほど理解していたのだ。

 
 
液晶画面に落ちた雫を拭うように、
私はテキストを入力した。
PR