破った手紙の数だけ花を贈ってみようか Category:未選択 Date:2015年07月03日 こんばんは。 梅雨に便乗してしみったれた文章を書いてみました。突然。 読んでくださる方は続きからどうぞ。 気付くと、そこに立っていた。 見慣れない、不可思議な場所。 「(・・・どこだろう、ここ)」 ただただ真っ白の空間。 天も地も、右も左もただ白く、何も無い。 どうやってここまで来たのか、何故こんなことになってしまったのか、分からない。 「(頭が、ぼんやりする。それに何だか、足が・・・)」 足の裏がやけに痛い。 足元をよく見ると、平らだと思っていた地面は、真っ白な小粒の石が敷き詰められていた。 石一つ一つはあまり角張っていないが、ぼうっとしている間に、小さな刺激が重なって気になるくらい痛くなり始めていた。 歩いたらもっと痛そうだが、立ち尽くしていても結局痛いままだ。 「(とりあえず、進もう)」 私は、前も後ろも分からない空間を歩き始めた。 しばらく歩いていると、様々なことに気付き始めた。 まず、左右の白は空間ではなく、壁だった。 触ると、少しざらりとして、何故か甘い匂いがした。 そして、よく見ると真っ白では無かった。 微妙に色の違う大きな円が少しずつ重なって描かれていて、 その重なった部分から、穴が空いている訳でも無いのに生暖かい風が漏れていた。 ますます意味の分からない空間だな、なんて思いながら歩いていたら、 進行方向のずっと遠くに、小さな黒っぽい点が見え始めた。 「(もしかして、出口?)」 私は、少し歩を早めた。 実はさっきから、ちょっとだけ泣きたい気持ちになっていた。 終わらない足の痛み。延々と続いているように思える、何も無い空間。 寂しかった。 そして、こんな寂しい場所は知らないはずなのに、 進むにつれて何かを思い出しそうな感じがして、 それは思い出してはいけないことのような気がして、 なんだか泣きたかった。 「(早く、出よう)」 ようやく、点の目の前に着いた。 点は、点ではなくて四角だった。もっと言うと、一枚の絵の額縁だった。 絵の中には、一組の人間の男女が描かれていた。 右側に男、左側に女がいて、二人とも膝立ちで向かい合い、 男の両手は女の首元に伸びて、緩く首を掴んでいた。 男の口は開いていて、何かを言っているようだった。 女はそれを、聞いているのかいないのか、目を閉じてただただ無表情だった。 女のその表情を見たとき、急に右腕が震えて、私は思わずぎゅっと手を握り締めた。 女は何を考えているのだろう。 男は何を言っているのだろう。 男の表情をもう一度確認しよう。そうすれば何か分かるかもしれない。 私は、視線を動かそうとした。 その瞬間、 世界は、ぐるりと回転した。 ごすん。 鈍い音がして目を開けると、そこは自宅のリビングのソファの足元だった。 近くに置いてあるテレビから、野球中継の音がしている。 「大丈夫?」 母の声がした。 そうだ、今日は仕事が早く終わって、家に帰ってすぐリビングのソファに寝転んで。 「(寝てたのか・・・)」 母の問いかけには返事をせず、上半身を起こしてソファにもたれかかった。 寝惚けてんの、ご飯まだだから寝てていいよ。そう言って母は、野球中継の音を少し小さくして、夕飯の支度に戻っていく。 テレビの音が小さくなったからなのか、ふいに窓の外の音が聞こえてきた。 さぁさぁ、という弱い雨の音。 そういえば帰ってくるときも雨が降っていたっけ。 雨の日って眠いんだよなあ、と思いながら伸びをしたら、コツン、と足の先に何かが当たった。 「(・・・あ、携帯?)」 背面が上を向いた状態で、右上の角に小さな緑色の光が点滅している。 拾い上げて裏返すと、黒い画面に新着メッセージが浮かんでいた。 『あのさ、突然なんだけど、ご報告。 俺、結婚します。』 ああ。 なるほど。 そうか、そうだったのか。 私の頭の中で、何かが光って繋がった。 額縁の中の男が言っていたこと。 今なら、はっきりと分かる。 それから、男がどんな顔をしていたのかも。 そして私はもうずっと前から、 それを痛いほど理解していたのだ。 液晶画面に落ちた雫を拭うように、 私はテキストを入力した。 PR